世間一般では、恥ずかしいという思いは不快でネガティブな感情というイメージが強いです。
英会話に関するアドバイスでも「恥ずかしさを捨てましょう」というような意見をよく耳にします。
でも、感情には様々な役割があります。今日は、恥ずかしいと感じることが必ずしも悪いことではないということを心理学の視点からお話しし、恥ずかしさに対する誤解を解きたいと思います。
恥ずかしいという感情の正体
まず日本語で言う「恥ずかしい」は、英語ではEmbarrassedとAshamedという2種類の感情に分けることができます。これらの感情は似ていますが、心理学では異なる感情として扱われているので、意味を整理します。
Embarrassment
社会的なルールを破ってしまった時、社会的に望ましいとされる言動と自分の言動にギャップを感じた時などに他人の目を意識して生じる感情
I tripped over in front of my colleagues. I was so embarrassed.
同僚の前でこけてしまった。すごく恥ずかしかった。
Shame
道徳に反するような行為を犯してしまった時などに罪の意識を抱いて生じる感情
I didn’t tell the truth. I feel ashamed of myself.
私は本当のことを言わなかった。恥を感じている。
EmbarrassedとAshamedの違いをそこまで考えずに使っている人もいますが、これらの違いを認識しておくことで、自分が「恥ずかしい」と感じた時にその感情を客観視することができます。自分の感情を客観視することは、感情と上手に付き合っていくことにつながります。
恥ずかしいという感情の役割
英会話において、世間が求めている英語力と自分の英語力にギャップを感じて「恥ずかしい」と感じる人は沢山います。この時に感じる恥ずかしいは、多くの場合はEmbarrassmentだと思いますが、人によっては時間があったのに英語学習をサボり続けた自分に対してShameを感じることなどもあるかもしれません。今日はEmbarrassmentの役割についてお話しします。
Embarrassmentの方の恥ずかしさを感じることは「次は恥ずかしい思いをしたくないからもっと英語を勉強しよう」という意欲につながることがあります。この場合、恥ずかしいという感情は今後の自分にとって前向きな役割を果たしています。
それ以外にも、Embarrassmentの恥ずかしさは人間関係において大切な役割を果たすことがあります。
その役割を理解するためには、感情を抱いている本人の視点ではなく、感情を読み取った人の視点を考慮する必要があります。
例えば、日本語学習者のAmyが日本語を間違えた時、恥ずかしいという感情を抱いたとします。
赤面、顔を触る、視線を落とすなどの変化、またはその他の言動を通して私たちがその感情を読み取った場合、私たちはAmyが社会的なルールを気にかけている人だと認識します。
反対に、英語学習者の自分が英会話でミスをしてしまい、恥ずかしいという感情を抱いたとします。その感情の現れは外国人の聞き手にとって、私たちが社会的なルールを気にかけている人だという合図になります。
一般的に人は社会的なルールを(最低限)気にかけている人に対して好感や信頼を抱きます。
そのため、恥ずかしいという感情の伝達は、人が何らかの社会的なルールを破ってしまった時などに、その埋め合わせとして人間関係を良好に保つための大事な役割を果たしていると言えます。
こうした理由から、英会話で上手に話せないことで恥ずかしいという感情(Embarrassment)を抱くことは必ずしも悪いことではないと私は思います。
さらに英会話は言葉だけではなくコミュニケーションの仕方が日本語の会話とは大きく異なるので、普段の自分とは違う態度を取ることを求められます。日本の社会だったら浮いてしまうようなコミュニケーションを取ることに最初は恥ずかしいと感じるのは当たり前です。
よって、目指すべきなのは恥ずかしさを捨てることではなく、恥ずかしさを受け入れることだと思います。
まとめ
恥ずかしいという思いに対して不快でネガティブな感情というイメージを抱いている方は多いですが、恥ずかしいという感情の伝達は人間関係にとって大切な役割を果たしているという見方もあります。恥ずかしい感情を素直に表現することで相手が好感を抱いてくれることもある、ということを頭に入れておけば、英会話における恥ずかしさをピンチからチャンスに変えることができるかもしれません。
参考文献:
Feinberg, M., Willer, R., & Keltner, D. (2012). Flustered and faithful: Embarrassment as a signal of prosociality. Journal of Personality and Social Psychology, 102(1), 81–97.