やる気満々で立てた目標を途中で投げ出してしまった経験は誰にでもあると思いますが、その代表的な原因として挙げられるのがモチベーションの低下です。今日は、パフォーマンス・サイエンスという学問でよく知られているモチベーションに関する法則を紹介します。
Self-determination theory (Deci & Ryan, 1985)によると、人間には誰にでも精神的に成長したいという願望があり、新しい経験から得た学びを統合し、一貫した自分を保とうとする傾向があります。でもその成長したいという願望は、環境の影響によって強くなったり弱くなったりします。具体的には、以下の3つ心理的欲求を満たす環境はモチベーションを上げたり、心身の健康を増進する効果があり、それらの心理的欲求を妨げる環境はモチベーションを下げたり、心身の健康を害する可能性が高いとされています。日々の生活においても、特定の活動においても、この法則を利用してモチベーションを高めるためには、以下の3つの条件を満たす環境を作ることが重要です。
1. Competence 「適性」
一つ目のCompetenceは、適性を感じる欲求です。人は、自分が下手だと感じることよりも上手くできていると感じることを好みます。なので、自分が元々得意ではない課題に取り組む場合も、小さな成功体験を積み重ねられる環境を作ることが大切です。
Competenceを満たす環境(例:勉強)
初級レベルの英語学習者だったら、自分のレベルに合ったクラスやレッスンを探したり、自分に自信を与えてくれる話し相手や先生を選んだりすることで、「自分は英語学習を上手にできている」と感じ、Competenceの欲求を満たすことができます。逆に自分のレベルには難しすぎる中級クラスに通い、自分の英語の間違いをバカにするような人ばかりと英語を話す環境にいたら、同じ英語力でもCompetenceの欲求は満たされません。
2. Autonomy 「自主性」
二つ目のAutonomyは、自主性の欲求です。人は誰かに指図され、強制的に何かを義務づけられる状況にはストレスを感じるので、ある程度自分の判断で自由に行動できる環境が必要です。それが許されない環境にいる場合、せめて生活の中のある活動や場所においては自由に行動できる時間を確保し、気分転換するのもありだと思います。
Autonomyを満たす環境(例:職場)
例えば転職を考えている方は、「仕事で使うソフトは自分で選べる」、「お昼は好きな場所で食べられる」など自分が望む自由が与えられる職場なのかを見極めることが大切です。先輩や上司の立場にいる方は、自分の後輩や部下のサポートをする上で、何でも自分のやり方や考えを押し通すのではなく、いくつかの選択肢の中から取り組みたい課題を本人に選んでもらったり、仕事の進め方に関して少し自由を与えたりすることで、後輩や部下のAutonomyの欲求をより効果的に満たすことができます。
3. Relatedness 「つながり」
三つ目のRelatednessは、まわりや社会とつながっていると感じる欲求です。広く浅く付き合いたい人、狭く深く付き合いたい人など、まわりとの関係性に求めるものは人によって異なります。でも人との関わりを全く持たずに心身の健康を保てる人はなかなかいないので、自分の成果や喜び、悩みなどを共有できる人がいる環境を作ることは大切です。
Relatednessを満たす環境(例:趣味)
例えば趣味のギターを一人で部屋にこもってただひたすら練習するだけでは、だんだんモチベーションが下がってしまうかもしれません。そんな時は、直接でもネットでも誰かに自分の演奏を聴いてもらったり、ギター好きの人達が集う場所に行って情報交換をしたりすることで、Relatednessの欲求を満たすことができます。
今の生活にストレスを感じている方、達成したい目標のある方、自分ではない誰かの目標達成をサポートしたい方も、ぜひ今日紹介した3つの心理的欲求を満たす環境を意識して整えてみてください。例え今の環境をすぐに改善できなくても、自分の不満やモチベーション低下の原因を特定すること自体にも価値があります。ちなみに私はCompetence, Autonomy, Relatednessの頭文字をとってCAR(車)と覚えています。
菅沼ケイ