今日は、日本の英語教育において十分に注目されていないturn-takingというスキルについて、お伝えします。
turn-takingとは
会話とは、誰かと誰かが順番に話すことによって成り立ちます。この条件を英語ではturn-taking、日本語では「話者交替」と言います。(my turnは私の順番、your turnはあなたの順番という意味です。)
例えば、複数人で話している時、日本語では「〇〇さんはどう思う?」という言葉をかけたり、ジェスチャーやアイコンタクトを使ったりして、あまり発言していない誰かにturnを与えることができます。自分が話している時に誰かに遮られたくない時は、「えーっと」や「あのー」という表現を通して、自分のturnをキープしたいという意思表明をすることができます。
ほとんどの人々は普段から意識せずに様々な言語・非言語メッセージを使いこなしてturn-takingを行なっていますが、心理学の視点からすると、turn-takingは非常に複雑なプロセスです。円滑なコミュニケーション及び人間関係に欠かせない非常に重要なスキルでもあります。
日本人にとって英会話のturn-takingが難しい理由は、言語力の問題だけではありません。日本語において適切なturn-takingと英会話における適切なturn-takingが異なることも、大きな理由の一つです。
したがって、英語学習者にとって英会話特有のturn-takingのスキルを磨くことはとても重要な課題だと言えます。
日本語と英語のturn-takingの違い
日本語の会話には一時的な沈黙がよく見られること、英語では発話の被さりが多いことがこれまでの研究の多数で指摘されています。
この違いの要因として、英語では相手が求める返答を予測するための合図が”Would you like to〜?”など文の最初に位置しており、日本語ではその合図が「〜しませんか?」など文の最後に位置することが挙げられています。
全ての発話がこのパターンに沿っているわけではありませんが、このような基本的な文の構造の違いによって、英語の聞き手は日本語の聞き手よりも早い段階で自分の返答の準備をし始めることが多いです。
その結果、英会話では相手の発話に被さるような事例も多く見られるというわけです。そのような言葉のやりとりに慣れている英語話者にとって、長い沈黙(発話の休止)は馴染みがありません。
一方で、最後まで相手の発話を聞いてみないと返答の方向性が固まらないことも珍しくない日本語の聞き手は、相手の話を最後までじっくり聞くということが習慣づいています。発話の間に生じる沈黙にも慣れています。
こういった違いから、日本人にとっては違和感を感じない程度の沈黙が英語話者にとっては「何を考えているのか分からない」という印象を与え、誤解を招いてしまうことがあります。
反対に英語話者のコミュニケーションにおける沈黙の短さが日本人とっては戸惑いを与えてしまうこともあります。
例えば、アカデミックやビジネスにおける複数人の英会話のturn-takingは、(私を含め)多くの日本人にとって抵抗を感じさせる対話のスタイルです。個人個人が自ら話すチャンスを見つけ、積極的に発話する姿勢が求められる英語のディスカッションは、弱肉強食の世界と言えます。
8歳の頃からイギリスに住んでいる私は、大学に入学した時に英語力には何も問題がありませんでしたが、複数人のディスカッションの授業における英語話者のturn-takingの激しさに圧倒され、心が折れました。
「〇〇さんがまだ話してないから、話を振ってあげましょう」、「相手の発言がまだ終わっていないかもしれない時に被さらないように気をつけましょう」というような多くの日本人に見られる繊細なturn-takingの気配りは、あまりないのが現状です。特にディスカッションなどで反対意見を表明する際、英語話者は日本語話者よりも早く返答するという違いが研究結果でも報告されています。
対策
これらの違いから英語学習者が頭にインプットすべきことは、英会話と日本語の会話のturn-takingには対立している要素があるということです。英会話のturn-takingに順応する過程において、違和感や不快感を覚えるのは自然なリアクションだということ、まずはそれをきちんと認識することが重要です。turn-takingの違いによって自信を失わないためには、以下の2つの対策をおすすめします。
(1)パーソナルに受け止めない
自分のturnを奪われているような気がしたり、自分のペースを乱されているような気がしても、相手は悪気なくただ慣れ親しんでいるturn-takingを行なっているだけかもしれません。英会話で驚くことは沢山あると思いますが、あまりパーソナルに受け止めないことが大切です。
(2)意識して言語化する
沈黙には、良くも悪くも大きな力があります。英語話者は日本人ほど沈黙に慣れていないため、相手の発言が理解できない時は、あまり沈黙が長く続く前に以下のようなフレーズを通して、自分が困っていることを言語化することが重要です。「相手も分かっているだろう」という思い込みは危険です。
Sorry, could you repeat that please?
Sorry, could you please speak more slowly?
参考文献:
Williamson, J. (2019). A pragmatics explanation for Japanese-English turn-taking contrasts and the need for pedagogical intervention: A response to Davey Young’s TLT Article.
Young, D. (2018). Contrastive models for turn-taking in English and Japanese. The Language Teacher, 42(3), 9–12.