前回の投稿では、実験心理学を学ぶことで人の思考や行動に対する理解が深まり、日常の様々な場面において良い影響をもたらすというお話をしました。今日はその一例として、仕事や学業、人間関係のために知っておいた方がいい「人間の思考の誤り」を紹介します。
確証バイアスとは
誰もがおかしやすい認知の誤りの一つで確証バイアス(confirmation bias)というものがあります。これは、何かの判断をする際に自分が既に抱いている仮説やアイディアを肯定する情報(データ)ばかりに目を向けたり、手に入れた情報を自分の仮説を支持するかのように解釈したりして、自分の仮説を否定する情報に目を向けない傾向です。
自分が元々持っている仮説やアイディアが偏っている場合、確証バイアスに支配されることで客観的な判断ができなくなり、簡単に言えば、思い込みが強くなってしまいます。
それが前向きな思い込みであれば必ずしも悪い結果にはつながらないかもしれませんが、多くの場合、「強い思い込み」は仕事や学業、人付き合いなど様々な場面において害になる危険があります。
仕事における確証バイアス
例えば、ファンドマネージャーがポテンシャルの高い会社を見つけてその会社の株を買いたいと思ったとします。《この会社はポテンシャルが高い》という仮説を持つこと自体には問題はないのですが、確証バイアスによって自分の仮説を肯定する情報ばかりを集め、自分の仮説を否定する情報に目を向けなかったらどうでしょう。きっと「この会社は素晴らしい」という結論にたどり着きます。でも実際は、その会社には致命的な欠点があるかもしれません。その欠点を示唆する情報が存在するにも関わらず、それに目を向けなかったために株を購入し、後で痛い目にあってしまったら、それは確証バイアスの罠にひっかかったと言えます。
人付き合いにおける確証バイアス
人付き合いにおいては、《自分は嫌われている》と言う仮説を持っている人が確証バイアスによってそれを支持する情報ばかりに目を向け、たまたま外で見かけた知り合いに挨拶されなかっただけで「やっぱり自分は嫌われている」と確信してしまうパターンなどが挙げられます。実際は、相手は視力が悪くてその人に気づかなかっただけかもしれません。
自分の選択権
確証バイアスは、日常のあらゆる場面で誰もがおかしてしまう認知の誤りです。科学的な研究で明らかになっている人間の思考パターンの傾向です。でもそれに支配されて生きていくか、あるいは対策を立てて行動を変えていくか、それは自分次第です。そして、その選択肢によって未来が大きく変わっていくと思います。
次の投稿では日本人の英語学習者の自信を失わせている確証バイアスの罠を指摘し、確証バイアスを回避するための対策を紹介します。
菅沼ケイ